はじめに

近年、製造業の現場では 監視対象となる設備が急増 しています。
DXの推進により、生産設備や物流ラインには多数のセンサーが導入されていますが、依然として「監視コストが高い」「カバー範囲に限界がある」といった課題が存在します。

特に火災リスクを抱える設備では、従来は以下のような方法が一般的でした。

  • 人が定期巡回 して異常を目視確認
  • 火災報知器による異常検知(ただし検知時には火災が進行している場合も多い)
  • 発見後に 人が手動で設備停止 を実施

このアプローチは、

  • 人手不足の時代に非効率
  • 異常を「早期に検知」するには不十分
    という問題を抱えています。

そこで、「低コスト・小型・迅速導入」を実現するエッジデバイス型の監視機器 をプロトタイプとして開発しました。

工場内火災と消火活動


開発の狙い

今回の開発では、以下の要件を満たすことを目指しました。

  1. 安価に導入できること

    • 市販のマイコンボードとサーモカメラを活用
    • ハードウェアコストを数千円レベルに抑制
  2. 短期間で開発できること

    • 実装はファームウェアとユーザーソフトのみに限定
    • 開発期間は1週間で完結
  3. クラウドとの親和性

    • MQTTプロトコルでAWS等へデータ送信可能
    • 将来的にビッグデータ分析やAI推論と連携可能
  4. セキュリティ・信頼性

    • ローカル暗号化保存に対応
    • 改ざん防止のためブロックチェーン連携を検討

ハードウェア構成

  • M5 Stick Plus2
    コンパクトでWiFi/BLE通信機能を持つワンチップマイコン。
  • Thermo HAT
    赤外線サーモセンサーを搭載した拡張モジュール。

サーモカメラ・データハブ・クラウド構成

この組み合わせにより、手のひらサイズで持ち運び可能な「サーモカメラIoTデバイス」が完成しました。


開発環境

  • 言語: C++ (Platform IO)
  • 期間: 1週間
  • 設計方針
    • 省メモリ環境に合わせた軽量設計
    • 通信モジュールをラッパ化して再利用可能に
    • データ取得・送信・保存の3層構造でシンプルに整理

システム構成

本システムは エッジ → データハブ → クラウド の三層アーキテクチャを採用しています。

1. エッジデバイス

  • サーモカメラで温度分布を取得
  • WiFi / BLE でデータハブに送信
  • 軽量な前処理(閾値判定、異常検知アルゴリズム)を実装

実機画面(サーモ表示)

2. データハブ

  • 複数のエッジデバイスからデータを集約
  • SQLite3 によるローカル保存
  • MQTT プロトコルでクラウドに送信
  • ブラウザベースの管理画面から状況確認可能

3. クラウド

  • AWS IoT Core 経由でデータ受信
  • 長期保存用のデータベースと連携
  • BIダッシュボードで温度トレンドを可視化
  • AI推論エンジンと連携して「異常予兆検知」も可能

技術的チャレンジ

🔹 小型デバイスでの処理

M5 Stick Plus2 はメモリに制約があるため、

  • 温度画像をフル解像度では扱わず、
  • 代表値抽出(平均温度・最大値・ヒートマップ縮小)を採用。

🔹 データセキュリティ

  • 平文保存と暗号化保存を選択可能
  • 将来的にはブロックチェーンにオンチェーン保存し、改ざん防止を実現

🔹 短期間開発

  • PlatformIOを活用し、ライブラリ管理・デバッグを効率化
  • ファームウェアとアプリを分離し、スプリント型開発で1週間に収めた

応用シナリオ

  • 火災予兆検知: 倉庫や工場ラインでの異常発熱を即座に通知
  • 設備保護: モーター・配電盤・ポンプなどの異常加熱を監視
  • ビル・店舗での防犯活用: 簡易サーモ監視システムとして利用可能

今後の展望

  • AI推論のエッジ実装

    • エッジデバイス側で簡易な異常検知モデルを動作させ、検知速度を向上
  • クラウド連携の強化

    • AWSと連携して大規模データ分析
    • 予兆保全(Predictive Maintenance)への応用
  • ブロックチェーン連携

    • 測定データをトレーサブルに保存
    • 改ざん不可能な監視ログとして利用

測定データのブロックチェーンへの保存


まとめ

今回開発したプロトタイプは、

  • 安価で手軽に導入可能
  • 1週間で開発できる軽量アーキテクチャ
  • 火災検知・設備保護・DX推進に活用可能

という特徴を持ちます。

半製品となっている既製のサーモカメラとワンチップマイコンを最大限活用することで、
「人に頼らず工場を守る」未来のスマート監視システム を安価に実現できることを実証しました。